太田研は名大では数少ないバイオインフォマティクスの研究室です.バイオインフォマティクスは基本的にはコンピュータを利用した生物学ですから,大人数で1テーマにとりかかる必要がありません.だから,一人一人が自分のテーマを持って研究を行っています.僕は今までタンパク質の構造や機能に関係した分野を研究対象にしてきましたが,太田研にいるから僕と似たことをしなくてはいけない,ということは全くありません.幸いにしてバイオインフォマティクスに必要なデータベースや計算機などの研究環境は整えることができたので,新しいテーマでも比較的容易にたちあげることが可能になりました.

ここで紹介するのは,過去に携わっていた研究テーマや現在進行中の研究テーマの一端です.

January, 2013 太田元規

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1. タンパク質の会合,相互作用/Protein oligomerization, Protein-protein interaction

タンパク質の中には会合し,四次構造をとることで初めて活性をもつものがあります.また,会合状態を変化させることで情報伝達を担うものもあります.会合状態や相互作用の相手や形態がどういう因子によって決められるのかをデータベースを利用して研究しています.これまでに相互作用面の中心が疎水的なアミノ酸に置換され,その周辺部位が突き出すことにより平滑な相互作用面が形成されること,非疎水的な短いループが相互作用面を補完するのに利用されることを発見しました.

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Copyright © 2012 OTA Laboratory All rights researved.

参考文献: Nishi & Ota, Proteins (2010)


2. ミニマムゲノム,ミニマム生物モデル/Minimum genome

どのくらいの構成部品(タンパク質)があれば,生命という装置を作ることができるのでしょうか?ゲノム配列が決定されてから,最小ゲノムセットを求める試みが多くなされるようになりました.今までに提出されたミニマムゲノムの定義や相互の関連を調べ,生命に必須な要件を洗い出し,相互作用やネットワークを定義することでコンピュータ上にミニマム生物モデルを構築したいと考えています.これまでにバクテリアのゲノム比較とパスウェイデータを利用して,必須な細胞機能を推定しました.遺伝情報処理にかかわる部分は共通細胞機能として,それに基質を供給する代謝機能は生物種依存細胞機能として同定されました.

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参考文献: Azuma & Ota, BMC Sys. Biol. (2009)


3. 酵素の構造変化,基質遮蔽と反応機構/Conformational change, substrate-shielding, and reaction mechanism of enzymes

タンパク質が機能を発現する時にはしばしば構造変化を伴います.構造変化の様式と分子機能の関係を,アノテーションが豊富な酵素を題材に調べています.これまでに,加水分解酵素は構造変化せず基質を水にさらしたまま反応を行うのに対し,転移酵素は大きく構造変化し基質を水から遮蔽することを見いだしました.同じフォールドに属す加水分解酵素と転移酵素では,転移酵素がマルチドメイン化やオリゴマー化することで体積をかせぎ,基質を遮蔽することなどを解明しました.

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参考文献: Koike et al., Prot. Sci. (2009)


4. 天然変性タンパク質/Intrinsically disordered protein

近年,孤立した環境では立体構造をとらないのに機能を持つ天然変性タンパク質が注目されています.このタンパク質の特徴を調べるために,天然変性タンパク質のデータベースを作成しています.研究室内にアノテーションチームを発足し,データベースを1から作成し公開しました.また従来天然変性領域はX線結晶構造解析の欠損残基から定義されておりNMR構造はあまり考慮されていませんでした.NMR構造の構造揺らぎとX線構造の欠損残基を比較し,相関が最も良くなる揺らぎの値を決めることで,NMR構造から天然変性領域を定義する方法を提案しました.

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参考文献: Fukuchi et al., NAR (2012)


5. 複合体の立体構造比較法/Structure comparison of protein complexes

タンパク質の立体構造を比較する方法はあまたありますが,複合体構造を比較する方法はあまり提案されていません.複合体構造こそがタンパク質機能の解明に重要なのに,そしてその構造数は近年飛躍的に増加しているのに,自動比較法がないと研究が深まりません.そこで,二次構造要素を用いたタンパク質の立体構造比較法を複合体比較法に素直に拡張することで,新しい方法を開発しました.私たちの方法は既存方法と同程度の良いパフォーマンスを示し,かつ高速という点が特徴的です.会合状態が異なる場合も比較ができますし,構造変化の大きさからの構造分類も可能です.

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参考文献: Koike & Ota, Bioinformatics (2012)


6. タンパク質のドメイン構成/Protein domain architecture

ほとんどのタンパク質はいくつかのドメインから構成されています.こういったドメイン構成を変化させることで生物は進化してきたとも考えられています.例えば,原核生物のタンパク質と真核生物のタンパク質を調べると,進化の結果あらたに発明されたドメインは少ないのに対し,ドメイン構成は多様化していることがわかります.ドメイン構成からみた新機能獲得の歴史をたどりたいと思っています.


7. タンパク質のフォールディングシミュレーション/ Simulation of protein-folding

最近は小さなタンパク質であれば分子動力学でフォールディング過程を観察することができるようになりました.東工大のグリッド計算機(Titech Grid)をフル活用して小さなタンパク質のフォールディングを調べています.フォールディング過程を調べる新しい方法,軌道アラインメント法を開発しました.観察結果を蓄積し,パスウェイ理論やファネル理論をしのぐような新しい概念を提出するのが夢です(with 横市大).図はフォールディング軌道を分類した系統樹です.

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参考文献: Ota et al., PNAS (2004)


8. タンパク質のフォールド認識/Protein fold recognition

タンパク質のフォールド認識(構造認識)は,タンパク質の配列から立体構造を予測する方法の1つで,既知立体構造データベースから,配列と適合する構造を選びます.いままで構造選択時に利用するスコア関数の研究を行ってきました.配列プロフィールを基盤とする新世代のフォールド認識法が出現してからは第一線から少し離れてしまいましたが,構造予測のコンテスト(CASP)に出場したこともあります.図はCASP3で予測的中と認定された,Target83の予測構造と実際の構造(答え)です.

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参考文献: Ota et al., Proteins (1999)


9. タンパク質のデザイン/Protein Design

立体構造構築原理の理解度を確かめるには,自分たちの方法でタンパク質を設計して,思い通りだったかを検証することが必要です.また,自由にタンパク質の形がデザインできれば新しい形を作ることもできますし,薬の設計などに役立つかもしれません.フォールド認識で利用するスコア関数やモデリングツールなどを利用してターゲット構造を満たす配列を設計し,構造形成能を実験的に確かめています(with 理研).図に最近デザインの対象としてとりくんでいるリプレッサの構造(左)と,コンピュータでデザインしたタンパク質の理論モデル(右)を示します.

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参考文献: Isogai et al., JMB (2005)